・・・表の戸は二寸ばかり細目に開けてあるのを、音のせぬように開けて、身体を半分出して四辺を見まわすようであったが、ツと外に出た。軒下に立っているのが昨夜お梅から『お菊さんによろしく』と冷やかされた男。『オヤ磯さん? なぜそんなところに立ってる・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・そして御隠居さんの寝間の障子を細目にあけ、敷居のところに手をついて、毎朝の御機嫌を伺ったものだという。年若い頃のお三輪に、三年の茶の道と、三味線や踊りの芸を仕込んでくれたのも母だ。財産も、店の品物も、着物も、道具も――一切のものを失った今と・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・ゆえに漸進急進の別は方法の細目なれば、余輩は、この論者を同一視して、ひとしくこれを改進者流の人物と認めざるをえず。すなわち、今日、我が国にいて民権を主張する学者と名づくべき人なり。 民権論は余輩もはなはだもって同説なり。この国はもとより・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・その働の急劇なるは事実の要用においてまぬかるべからざるものなり。その細目にいたりては、一年農作の飢饉にあえば、これを救うの術を施し、一時、商況の不景気を見れば、その回復の法をはかり、敵国外患の警を聞けばただちに兵を足し、事、平和に帰すれば、・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・、ついに同国人とともに一国の独立を謀るも自然の順序なれば、自主独立の一義、もって君に仕うべし、もって父母に事うべし、もって夫婦の倫をまっとうし、もって長幼の序を保ち、もって朋友の信を固うし、人生居家の細目より天下の大計にいたるまで、一切の秩・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・での現実の考えかた、観かたはいつも真に透徹した明晰さをかいていて、どこかに真実を歪めたりかくしたりする偽瞞をもっていること、詭弁から解放され得ないことを、ソヴェトのそとのヨーロッパ諸国の生活のあらゆる細目から感じた。その植民地問題の論じかた・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・というルポルタージュを書いてロンドンの東の恐ろしい生活の細目を世界の前にひらいてみせた。イーストは一九二九年にもやっぱりイーストだった。そこからぬけ出しようのないばかりか、悪化してゆく貧困にしばりつけられた人々の生きている地区だった。尨大な・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・まるで天眼通を授かったように、血なまぐさい光景の細目まで、歴然と目の前にえがかれて来た。これでは、実際あると同じこわさだ。神よ、私に眠りを授け給え! 一晩じゅう、どんなに私が体を火照らせ、神経を鋭敏に働かせ通したか、あけ方の雀が昨日と同・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ 作者の心持が稚くても、ふっくりとしていて、描かれている農村の生活の細目も自然にうけとれた。ただし、主人公の青年の父親が、農民の生活を不安にする現実から、段々民主的な働きに目を向けて来てやがて積極的になってからのところが、割合安易にかけ・・・ 宮本百合子 「稚いが地味でよい」
・・・が終っているあとにつづく闘病者の現実、療養所内の自治会活動についてあらわれている現実の細目とでもいうべき題材である。誠実な心情がうけとれる。作者は、しかし、人道的であり集団的活動の熱意をもって働いている主人公のありかたについて、もう一つ深め・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
出典:青空文庫