・・・そこへ――ちょうどその曲の終りかかったところへ幸い主人が帰って来るのです。 主筆 それから? 保吉 それから一週間ばかりたった後、妙子はとうとう苦しさに堪え兼ね、自殺をしようと決心するのです。が、ちょうど妊娠しているために、それを断・・・ 芥川竜之介 「或恋愛小説」
・・・ この上いうことはないように思います。終わりに臨んで諸君の将来が、協力一致と相互扶助との観念によって導かれ、現代の悪制度の中にあっても、それに動かされないだけの堅固な基礎を作り、諸君の精神と生活とが、自然に周囲に働いて、周囲の状況をも変・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・この一語は診察の終わりであった。多くの姉妹らはいまさらのごとく声を立てて泣く、母は顔を死児に押し当ててうつぶしてしまった。池があぶないあぶないと思っていながら、何という不注意なことをしたんだろう。自分もいまさらのごとくわが不注意であったこと・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・も通り抜けて、終りになり、踊り手は畳に手を突いて、しとやかにお辞儀をした。こうして踊って来た時代もあったのかと思うと、僕はその頸ッ玉に抱きついてやりたいほどであった。「もう、御免よ」吉弥は初めて年増にふさわしい発言をして自分自身の膳にも・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・という丁の終りまではシドロモドロながらも自筆であるが、その次の丁からは馬琴のよめの宗伯未亡人おミチの筆で続けられてる。この最終の自筆はシドロモドロで読み辛いが、手捜りにしては形も整って七行に書かれている。中には『回外剰筆』にある通り、四行五・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・もし青年が青年の心のままを書いてくれたならば、私はこれを大切にして年の終りになったら立派に表装して、私の Libraryのなかのもっとも価値あるものとして遺しておきましょうと申しました。それからその雑誌はだいぶ改良されたようであります。それ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ ある夏のこと、ちょうど休暇が終わりかけるころから、年郎くんの家のいちじゅくは、たくさん実を結んで、それは紫色に熟して、見るからにおいしそうだったのです。 ちょうど遊びにきた吉雄くんは、これを見て、びっくりしました。「これは、い・・・ 小川未明 「いちじゅくの木」
・・・と書いているのに、終りの方では「僕」になったりしている。連載物など、前に掲載した分を読み返すか、主要人物の姓名の控えを取って置けば間違いはないのに、それをしないものだから、平気で人名を変えたりしている。それに驚くべきことだが、字引を引いたこ・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・底知れない谷へでも投りこまれたような、身辺いっさいのものの崩落、自分の存在の終りが来たような感じがした。「どうかなすったんですか?」と、お婆さんは私の尋常でない様子を見て、心配そうに言った。「おやじが死んだんだそうです……おやじが死・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・ その終わりに近いあるアーベントのことだった。その日私はいつもにない落ちつきと頭の澄明を自覚しながら会場へはいった。そして第一部の長いソナタを一小節も聴き落すまいとしながら聴き続けていった。それが終わったとき、私は自分をそのソナタの全感・・・ 梶井基次郎 「器楽的幻覚」
出典:青空文庫