・・・もうこれで終了すると思えば心にも余裕ができる。 道々考えるともなく、自分の今日の奮闘はわれながら意想外であったと思うにつけ、深夜十二時あえて見る人もないが、わがこの容態はどうだ。腐った下の帯に乳鑵二箇を負ひ三箇のバケツを片手に捧げ片手に・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・やがて委員が立って、「それでは、之で座談会を終了いたします。」と言ったら、なあんだというような力ない安堵に似た笑い声が聴衆の間にひろがりました。 これで、私の用事は、すんだのです。いや、それから生徒の有志たちと、まちのイタリヤ軒という洋・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・ 晴夜が三晩もあれば、観測は終了するはずであるが、ここへテントを張ってから連日の雨か曇りでどうしても星が見えない。しかしいつなんどき晴れるかもしれないから、だれか一人は交代の不寝番で空を見張っていなければならない。燈火が暗いから読書や書・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ しかし、川の流れをさかのぼって深い谷間の岩の割れ目に源泉を発見した場合にいわゆる源泉の探究はそれで終了したとしても、われわれはその泉の水が決して突然そこで無から創造されたものではなくて、さらに深く地下の闇の中にその出所を追究することが・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・しかし実際はこの火花放電の経過は一秒の百万分一ぐらいの短時間に終了するという事が実験によって確かめられたので、到底肉眼でその火花の生長を認識することは不可能なはずである。それだのにそれが移動するように「見える」というのは、全くわれわれの眼底・・・ 寺田寅彦 「人魂の一つの場合」
・・・ 一九一八年第一次世界大戦終了の後、日本にも国際的な社会変化の波濤がうちよせ、人間性の展開および文学の発展の基盤としての社会性の問題がとりあげられた。けれども、徳川末期から明治へと移った日本文学の特色の一つとしての非社会性がつよい余韻を・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 第一次大戦終了の後、漸々新婦人協会が治安警察法第五条の改正を議会に請願し、世界の社会情勢に押されて一九二二年その改正建議案は貴衆両院を通過したが、その三年後には当時の内閣が、婦人公民権に対してさえ不許可を声明したのであった。昭和五年と・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・保釈の際、判事は二・二六による戒厳令下の事情によって百合子の公判が終了するまで顕治への面会通信は控えるようにといった。 六月二十六日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 二十六日の夜。九時 第一信[自注2] 今・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして、或る者は丁年になった時を、或る者は専門教育を終了した時を、新たな独立的生活の第一期と定め、それからは、生活方針を完く子等自身の意志によって支配させます。成長して子等も一箇の人間として立ったと云う感銘は、著しく我国に於けるそれとは強度・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・一枚の成人教育課程終了者群の写真も無い。淑女紳士の写真だけである。足の下には敷かぬ絨毯を前景に拡げ、背後の蔦とともに綺麗に並んだトインビー・ホール居住人――数ヵ月の社会事業見習期間を終った「社会事業家」が監督を中央に記念撮影している。 ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫