・・・しかし、肉体を描くということは、あくまで終極の目的ではなくて単なるデッサンに過ぎず、人間の可能性はこのデッサンが成り立ってはじめてその上に彩色されて行くのである。しかし、この色は絵画的な定着を目的とせず、音楽的な拡大性に漂うて行くものでなけ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・故郷の者たちに尊敬されるという事は、人間の最高の幸福で、また終極の勝利だ。」「どうしてそんなに故郷の人たちの思惑ばかり気にするのでしょう。むやみに故郷の人たちの尊敬を得たくて努めている人を、郷原というんじゃなかったかしら。郷原は徳の賊な・・・ 太宰治 「竹青」
・・・これは人間の歴史的発展の終極の理念であり、而もこれが今日の世界大戦によって要求せられる世界新秩序の原理でなければならない。我国の八紘為宇の理念とは、此の如きものであろう。畏くも万邦をしてその所を得せしめると宣らせられる。聖旨も此にあるかと恐・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ また時代というものに対しても、それから時代精神ということに就いても、本当にその時代に生存するには、前後及び終極の場所を見極めなくてはなりません。 時代というものは一つの大きな道です。私共は現在歩いているその道をよく見詰なければなら・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・世俗的なかためかたでは、現実の推移がもたらす主観的な幸、不幸はふせげない。終極における愛とは、妻の愛にしろ、母の愛にしろ、波瀾にめげず、社会と自分との裡にあるより人間的な可能性を見きわめ、その実現のためにこの世を凌いでゆける沈着、快活な勇気・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・したがって人間性の解放とその自由の要求には、過程として当然さまざまの社会的相剋、封建性とのさまざまのたたかいをさけがたいものとしていたし、そのたたかいを終極の勝利に導くためには、一見、人間性の解放とは逆のように見える集団の規則、献身、克己を・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫