・・・てみたのですが、大いに努力して百枚ちかく書きすすめて、いよいよ今明日のうちに完成だという秋の夕暮、局の仕事もすんで、銭湯へ行き、お湯にあたたまりながら、今夜これから最後の章を書くにあたり、オネーギンの終章のような、あんなふうの華やかな悲しみ・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・ 一編の終章にはやはり熱帯の白日に照らされた砂漠が展開される。その果てなき地平線のただ中をさして一隊の兵士が進む。前と同じ単調な太鼓とラッパの音がだんだんに遠くなって行く。野羊を引きふろしき包みを肩にしたはだしの土人の女の一群がそのあと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・一九三五年の早春のパリ事件の本質が、フランスの人民の国を愛す心と別に五年後にフランスを敗れさせるに到った深刻な事情について、モーロアの多弁は些かも説明し得ない。終章のモラルも、ジェスチュアが目立って甘たるい。 例えば、このひろく読まれた・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
出典:青空文庫