・・・ですから妙子は一生懸命に、震える両手を組み合せながら、かねてたくんで置いた通り、アグニの神が乗り移ったように、見せかける時の近づくのを今か今かと待っていました。 婆さんは呪文を唱えてしまうと、今度は妙子をめぐりながら、いろいろな手ぶりを・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・――その唐物屋の飾り窓には、麦藁帽や籐の杖が奇抜な組合せを見せた間に、もう派手な海水着が人間のように突立っていた。 洋一は唐物屋の前まで来ると、飾り窓を後に佇みながら、大通りを通る人や車に、苛立たしい視線を配り始めた。が、しばらくそうし・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・裸になった彼女は花束の代りに英字新聞のしごいたのを持ち、ちょっと両足を組み合せたまま、頸を傾けているポオズをしていた。しかしわたしは画架に向うと、今更のように疲れていることを感じた。北に向いたわたしの部屋には火鉢の一つあるだけだった。わたし・・・ 芥川竜之介 「夢」
・・・仁右衛門は膝頭で腕を組み合せて、寝ようとはしなかった。馬と彼れは互に憐れむように見えた。 しかし翌日になると彼れはまたこの打撃から跳ね返っていた。彼れは前の通りな狂暴な彼れになっていた。彼れはプラオを売って金に代えた。雑穀屋からは、燕麦・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・とぐろを巻いた大繩の上に腰を下して、両手を後方で組み合せて、頭をよせかけたまま眠って居るらしい。ヤコフ・イリイッチはと見ると一人おいた私の隣りに大きく胡坐をかいてくわえ煙管をぱくぱくやって居た。へん、大袈裟な真似をしやがって、・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・クララは改悛者のように啜泣きながら、棚らしいものの上に組み合せた腕の間に顔を埋めた。 泣いてる中にクララの心は忽ち軽くなって、やがては十ばかりの童女の時のような何事も華やかに珍らしい気分になって行った。突然華やいだ放胆な歌声が耳に入った・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・燕は目をきょろきょろさせながら羽根を幾度か組み合わせ直して頸をちぢこめてみましたが、なかなかこらえきれない寒さで寝つかれません。まんじりともしないで東の空がぼうっとうすむらさきになったころ見ますと屋根の上には一面に白いきらきらしたものがしい・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・ その蘆の根を、折れた葉が網に組み合せた、裏づたいの畦路へ入ろうと思って、やがて踏み出す、とまたきりりりりと鳴いた。「なんだろう」 虫ではない、確かに鳥らしく聞こえるが、やっぱり下の方で、どうやら橋杭にでもいるらしかった。「・・・ 泉鏡花 「海の使者」
・・・…… 指の細く白いのに、紅いと、緑なのと、指環二つ嵌めた手を下に、三指ついた状に、裾模様の松の葉に、玉の折鶴のように組合せて、褄を深く正しく居ても、溢るる裳の紅を、しめて、踏みくぐみの雪の羽二重足袋。幽に震えるような身を緊めた爪先の塗駒・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・後の烏三羽、身を開いて一方に翼を交わしたるごとく、腕を組合せつつ立ちて視む。初の烏 寝たよ。まあ……だらしのない事。人間、こうはなりたくないものだわね。――そのうちに目が覚めたら行くだろう――別にお座敷の邪魔にもなるまいから。……ど・・・ 泉鏡花 「紅玉」
出典:青空文庫