・・・それをまた組立てて綱渡りをさせるのが自分の責任だがどうしたらよいかと思い惑っていると、周囲のラウベンコロニーの青い小屋からドイツ人の男女がぞろぞろ出て来た。 なんだかこんな風な夢であったのですが、今この新短歌を読んでいると、不思議にこの・・・ 寺田寅彦 「御返事(石原純君へ)」
・・・科学者の組み立てた科学的系統は畢竟するに人間の頭脳の中に築き上げ造り出した建築物製作品であって、現実その物でない事は哲学者をまたずとも明白な事である。また一方において芸術家の製作物はいかに空想的のものでもある意味において皆現実の表現であって・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・ 作者の頭の中にある腹案のようなものは、いかに詳細に組み立てられたつもりでも、それは文学ではない。またそれを口で話して一定の聴衆が聞くだけでもそれは文学ではない。象形文字であろうが、速記記号であろうが、ともかくも読める記号文字で、粘土板・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・三本の木の株で組み立てられた竈の飯釜の下からは楽しげな炊煙がなびいている。小屋の中の片側には数日分の薪材に付近の灌木林から伐り集めた小枝大枝が小ぎれいに切りそろえ積みそろえられていかにも落ち着いた家庭的な気持ちを感じさせる。 測量部の測・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・それはわれわれの言語を組み立てている因子の中でも最も重要な子音のあるものの発音に必須な器械の一つとして役立つからである。これがないとあらゆる歯音が消滅して言語の成分はそれだけ貧弱になってしまうであろう。このように物を食うための器械としての歯・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・考えの式を組み立てるための記号をもたないと思われるからである。聾唖者には音響の言語はないが、これに代わるべき動作の言語がちゃんと備わっているのである。 数学では最初に若干の公理前提を置いて、あとは論理に従って前提の中に含まれているものを・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・ かく消極的に活力を節約しようとする奮闘に対して一方ではまた積極的に活力を任意随所に消耗しようという精神がまた開化の一半を組み立てている。その発現の方法もまた世が進めば進むほど複雑になるのは当然であるが、これをごく約めてどんな方面に現わ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・したがって吾々の道徳も自然個人を本位として組み立てられるようになっている。すなわち自我からして道徳律を割り出そうと試みるようになっている。これが現代日本の大勢だとすればロマンチックの道徳換言すれば我が利益のすべてを犠牲に供して他のために行動・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・――何しろ私はその変な画を眺めるだけで、講演の内容をちっとも組み立てずに暮らしてしまったのです。 そのうちいよいよ二十五日が来たので、否でも応でもここへ顔を出さなければすまない事になりました。それで今朝少し考を纏めてみましたが、準備がど・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・しかし、禁止のリストにのせられた作家・評論家たちの間に、統一された抗争は組み立てられなかった。ある種の人々が、さっそく、個人個人で、こっそりと役所へ連絡をつけ「自分として」問題の解決を急いだ。文芸家協会として、まとまった有効な抗議もされなか・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
出典:青空文庫