・・・その時分の研学の仲間に南ロシアから来ている女学生があって、その後一九〇三年にこの人と結婚したが数年後に離婚した。ずっと後に従妹のエルゼ・アインシュタインを迎えて幸福な家庭を作っているという事である。 一九〇一年、スイス滞在五年の後にチュ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・今になってみると、道太自身も姉に担がれたような結果になっているので、人のよすぎる姉に悪意はないにしても、姪の結婚に山気のあったことは争われなかった。「何しろあの連中のすることは雲にでも乗るようで、危なくてしようがない」「ふみ江ちゃん・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ここにおいてか、結婚は社交の苦痛を忍び得る人にして初めてこれを為し得るのである。社交を厭うものは妻帯をしないに越したことはない。わたくしは今日まで、幸にしておのれの好まざる俳優の演技を見ず、おのれの好まざる飲食物を口にせずしてすんだ。知人の・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・「うん所天は陸軍中尉さ。結婚してまだ一年にならんのさ。僕は通夜にも行き葬式の供にも立ったが――その夫人の御母さんが泣いてね――」「泣くだろう、誰だって泣かあ」「ちょうど葬式の当日は雪がちらちら降って寒い日だったが、御経が済んでい・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ことなく、一見甚だ美なるに似たれども、気の毒なるは主人公の身持不行儀にして婬行を恣にし、内に妾を飼い外に賤業婦を弄ぶのみか、此男は某地方出身の者にて、郷里に正当の妻を遺し、東京に来りて更らに第二の妻と結婚して、所謂一妻一妾は扨置き、二妻数妾・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・それからわたくしは二度目に結婚いたしました。これまで申上げると、わたくしはこの手紙を上げる理由を御話申さなくてはなりませんから、その前に今の夫の事を申しましょう。格別面白いお話ではございませんから、なるたけ簡略に致します。ジネストは情なしの・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・て歩いていますと、その牧場の主人がかわいそうに思って家へ入れて、赤ん坊のお守をさせたりしていましたが、だんだんネリはなんでも働けるようになったので、とうとう三四年前にその小さな牧場のいちばん上の息子と結婚したというのでした。そしてことしは肥・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・陽子は、暫らくでもいい、自分もこのような自然の裡で暮したいと思うようになった。オゾーンに充ちた、松樹脂の匂う冬の日向は、東京での生活を暗く思い浮ばせた。陽子は結婚生活がうまく行かず、別れ話が出ている状態であった。「あああ、私も当分ここで・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・F君は女学生と秘密に好い中になっていたが、とうとう人に隠されぬ状況になったので、正式に結婚しようとした。それを四国の親元で承引しない。そこで親達を説き勧めにF君が安国寺さんを遣ったと云うのである。 私はそれを聞いて、「安国寺さんを縁談の・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・ 世界は鵜飼の遊楽か、鮎を捕る生業かということよりも、その楽しさと後の寂しさとの沈みゆくところ、自らそれぞれ自分の胸に帰って来るという、得も云われぬ動と静との結婚の祭りを、私はただ合掌するばかりに眺めただけだ。一度、人は心から自分の手の・・・ 横光利一 「鵜飼」
出典:青空文庫