・・・表三の面上段に、絵入りの続きもののあるのを、ぼんやりと彳んで見ると、さきの運びは分らないが、ちょうど思合った若い男女が、山に茸狩をする場面である。私は一目見て顔がほてり、胸が躍った。――題も忘れた、いまは朧気であるから何も言うまい。……その・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・外国の絵入り雑誌などによくそれの三色写真などがある。そういう写真をよくよく見ていると、美しいには実に美しいが、何かしら一つ肝心なものが欠けているような気がする。それが欠けているためにこの美しい部屋が自分をいっこうに引きつけないばかりか、なん・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・たいてい絵入りなり。この時また文法書を学ぶ。文法を知らざれば、書を読みて、その義理を解する事、能わず。我が言葉をもって我が意を達するに足らず。言葉、意を達するに足らざるものは、唖子に異ならず。第三、地理書 地球の運転、山野河・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ 雪のあるモスクワの辻々に大砲を指揮する法王の絵入りポスターが貼られた。 ソヴェト同盟を守れ! 同じポスターは、映画館の壁の上にある。 ソヴェト同盟を守れ! 銀行のベンチから見える赤いプラカートの上に。ワロフスキー通りの・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・父のところには、とにかくそういう英語で、しかも絵入りのがあるので、何か欲しいとせがんだら一冊の紫紺色表紙の本を貸してくれました。「古代ギリシア彫刻家」という題で、父が云うには、これはためになる本だし、絵もあり、活字もパラリとしていて、書いた・・・ 宮本百合子 「写真に添えて」
・・・ ――だって、お前、ソヴェト同盟じゃ、あんなにプロレタリアートの階級意識を眠らす毒薬として宗教撲滅運動やってるじゃないか、見たよ、ソヴェトで出してる面白い絵入りの反宗教雑誌を。 ――確にそうさ。ソヴェト同盟のその運動は革命当時から着・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
・・・ 二階の壁に、絵入りのスモーリヌイ勤労者壁新聞が張り出してある。 スモーリヌイの外観は快活である。そのように内部も清潔で、白い。極めてさっぱりしている。 三階の廊下へ入るところに、赤衛兵が番をしている。許可証を赤衛兵にわたした。・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・それは、フランス劇文学におけるアポローであるモリエールと十七世紀の大古典派の宝ラ・フォンテーヌの作品の美しい絵入り本の出版とその売捌きである。一八二五年、ロシアでは有名な十二月党の反乱が悲劇的終結をとげた年、愈々この出版事業にとりかかった二・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 本棚がある。小説類、レーニン論文集、生理医学等の本がギッシリつまっている。「すべての勤労者に知識と健康とを!」 絵入りの手書壁新聞が貼られている。幾列も並んでいる長い卓子の一隅で、若い看護婦が帳面に何か書いている。われわれが入・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
出典:青空文庫