・・・ と夫人は絶え入る呼吸にて、腰元を呼びたまえば、慌てて看護婦を遮りて、「まあ、ちょっと待ってください。夫人、どうぞ、御堪忍あそばして」と優しき腰元はおろおろ声。 夫人の面は蒼然として、「どうしても肯きませんか。それじゃ全快っ・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・ と少し急き込みて、絶え入るばかりに咽びつつ、しばらく苦痛を忍びしが、がらがらと血を吐きたり。 いつもかかることのある際には、一刀浴びたるごとく、蒼くなりて縋り寄りし、お貞は身動だもなし得ざりき。 病者は自ら胸を抱きて、眼を瞑る・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・と生真面目な様子できく。女君はまぶたがうす紅になって、艷な顔をそむけるようにして、「幾度云っても同じ事」と絶え入るように云って扇で顔をかくしてしまわれる。その様子が又なく可愛いので強いことも云えず、ぐちっぽく一つことを二度も三度・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・法王 神の――又――法王は絶え入る。うす暗がりの部屋の裡で恐ろしく集った人の群は魔の影の様に音もなくひしひしと中央にせまって来る。どっかで淋しいすすり泣きの声が響き、十字架を置いて出た第一の若僧は手に普通の人の着る着・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫