・・・物の小半時も聞かされちゃ、噛み殺して居た欠伸の御葬いが鼻の孔から続け様に出やがらあな。業腹だから斯う云ってくれた――待てよ斯う云ったんだ。「旦那、お前さん手合は余り虫が宜過ぎまさあ。日頃は虫あつかいに、碌々食うものも食わせ無えで置いて、・・・ 有島武郎 「かんかん虫」
・・・ 一言いったきり、一樹が熟と凝視めて、見る見る顔の色がかわるとともに、二度ばかり続け様に、胸を撫でて目をおさえた。 先を急ぐ。……狂言はただあら筋を言おう。舞台には茸の数が十三出る。が、実はこの怪異を祈伏せようと、三山の法力を用い、・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・静岡の何でも町端れが、その人の父が其処の屋敷に住んだところ、半年ばかりというものは不思議な出来事が続け様で、発端は五月頃、庭へ五六輪、菖蒲が咲ていたそうでその花を一朝奇麗にもぎって、戸棚の夜着の中に入れてあった。初めは何か子供の悪戯だろうく・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・ 六杯、続け様に、のんだ。「おつよいのね。」 女が、両側に坐っていた。「そうか。」 乙彦は、少し蒼くなって、そうして、なんにも言わなかった。 女たちは、手持ちぶさたの様子であった。「かえる。いくらだ。」「待っ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・と笑う。「主の名は?」「名は知らぬ。ただ美しき故に美しき少女というと聞く。過ぐる十日を繋がれて、残る幾日を繋がるる身は果報なり。カメロットに足は向くまじ」「美しき少女! 美しき少女!」と続け様に叫んでギニヴィアは薄き履に三たび石・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・と後れたるウィリアムは叫ぶ。「白か赤か、赤か白か」と続け様に叫ぶ。鞍壺に延び上ったるシーワルドは体をおろすと等しく馬を向け直して一散に城門の方へ飛ばす。「続け、続け」とウィリアムを呼ぶ。「赤か、白か」とウィリアムは叫ぶ。「阿呆、丘へ飛ばすよ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫