・・・条約改正、内地雑居も僅に数箇月の内に在り、尚お此まゝにして国の体面を維持せんとするか、其厚顔唯驚く可きのみ。抑も東洋西洋等しく人間世界なるに、男女の関係その趣を異にすること斯の如くにして、其極日本に於ては青天白日一妻数妾、妻妾同居漸く慣れて・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・その事務、千緒万端、いずれも皆、戦隊外の庶務にして、その大切なるは戦務の大切なるに異ならず、庶務と戦務と相互に助けて、はじめて海陸軍の全面を維持するは、あまねく人の知るところならん。 然らばすなわち全国学問の事においても、教育の針路を定・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ すなわち今の事態を維持して、門閥の妄想を払い、上士は下士に対して恰も格式りきみの長座を為さず、昔年のりきみは家を護り面目を保つの楯となり、今日のりきみは身を損じ愚弄を招くの媒たるを知り、早々にその座を切上げて不体裁の跡を収め、下士もま・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・諸君、吾人は内外多数の迫害に耐えて、今日迄ビジテリアン同情派の主張を維持して来た。然もこれ未だ社会的に無力なる、各個人個人に於てである。然るに今日は既にビジテリアン同情派の堅き結束を見、その光輝ある八面体の結晶とも云うべきビジテリアン大祭を・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
宮本顕治には、これまで四冊の文芸評論集がある。『レーニン主義文学闘争への道』『文芸評論』『敗北の文学』『人民の文学』。治安維持法と戦争との長い年月の間はじめの二冊の文芸評論集は発禁になっていた。著者が十二年間の獄中生活から・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・日本の親のいじらしい心は、他の半面で、日本の軍国主義社会を支え維持させて行く大きな経済的社会的基盤となった。というのは「うちの息子は学問ができて人物もしっかりしているのに、金がないばかりに大学へやれない。知事や大臣にはなれなくても、せめて軍・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ 農家を維持するに必要な最小限の耕地面積は略一町七反であると云われている。 ところが実際では日本の全耕地所有農家の約半数が五反未満の田畑をもっているに過ない。 玄米一石の生産費自作農二五円八七銭 小作農二八円七一銭・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・ 彼らは感じのなさそうな顔のぼんやりしたふうで、買い手の値ぶみを聞いて、売り価を維持している。あるいはまた急に踏まれた安価にまけて、買い手を呼び止める、買い手はそろそろ逃げかけたので、『よろしい、お持ちなされ!』 かれこれするう・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・自分は神霊の存在なんぞは少しも信仰せずに、唯俗に従って聊復爾り位の考で糊塗して遣っていて、その風俗、即ち昔神霊の存在を信じた世に出来て、今神霊の存在を信ぜない世に残っている風俗が、いつまで現状を維持していようが、いつになったら滅亡してしまお・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・そうして初めは、彼らの武力による治安維持の努力が実際に目に見える功績であった。しかし後にはただ特権階級として、伝統の特権によって民衆の上に立っていたのである。しかし民衆運動が勃興して後には、由緒の代わりに実力が物をいうようになった。単なる家・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫