・・・ この篇は事実らしく書き流してあるが、実のところ過半想像的の文字であるから、見る人はその心で読まれん事を希望する、塔の歴史に関して時々戯曲的に面白そうな事柄を撰んで綴り込んで見たが、甘く行かんので所々不自然の痕迹が見えるのはやむをえ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・女も男も獣の皮か木の葉をかけて、極く短い綴りの言葉を合図にして穴居生活を営んでいる時代に、原始男女の世界は彼等の遠目のきく肉眼で見渡せる地平線が世界というものの限界であった。人類によって理解され征服されていなかった自然の中には、様々のおそろ・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ 私は細い赤縞の服を着てそのテーブルに向い、わきに立って私の上にかがみかかっている友達に、時々綴りを訊きながら、本の扉にロシア語を下手な字で書きつけている。私はゴーリキイに自分の小説を一冊贈るために持って行った。その扉に「予想されなかっ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・私が細い赤縞の服を着てそのテーブルに向い、わきに立って私の上にかがみかかっている友達に、時々綴りを訊きながら、本の扉にロシア語を下手な字で書きつけている。私はゴーリキイに、自分の小説を一冊贈るために持って行った。その扉に「予想されなかった遭・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・それを自分の頭でねって綴りました。二枚三枚は見るまで五枚六枚またたくひまに書かれてしまいました。けれ共それにあとで赤い字を一字も入れるすきはありませんでした。いつの間にか入って来た母親はその句の美くしさとその筆の動とに思をうばわれて居ました・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫