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・・・二丈三丈、萌黄色に長く靡いて、房々と重って、その茂ったのが底まで澄んで、透通って、軟な細い葉に、ぱらぱらと露を丸く吸ったのが水の中に映るのですが――浮いて通るその緋色の山椿が……藻のそよぐのに引寄せられて、水の上を、少し斜に流れて来て、藻の・・・
泉鏡花
「半島一奇抄」
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・・・ねむの花のような緋色の花の満開したのや、仏桑花の大木や、扇を広げたような椰子の一種もある。背の高いインド人の巡査がいて道ばたの木の実を指さし「猿が食います」と言った。人糞の臭気があるというドリアンの木もある。巡査は手を鼻へやってかぐまねをし・・・
寺田寅彦
「旅日記から(明治四十二年)」