・・・なぜ円いかと問いつめて見れば、上愚は総理大臣から下愚は腰弁に至る迄、説明の出来ないことは事実である。 次ぎにもう一つ例を挙げれば、今人は誰も古人のように幽霊の実在を信ずるものはない。しかし幽霊を見たと云う話は未に時々伝えられる。ではなぜ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・そうしていま社会主義の世の中にやっとなったようで、片山総理などが日本の大将になったということは、やはり嬉しいことではないかと思いながらも、私は昔と同じように、いや或いは昔以上に荒んだ生活をしなければならん。この自分の不幸を思うと、もう自分に・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・現在の映画ファンの中の堅実な分子の中から総理大臣文部大臣以下各局長が輩出する時代が来て始めて私の夢は実現されるかもしれない。しかしそういう日の来ないうちに不良映画の不良教育を受けた本当の不良が天下を溺らすようにならないとは限らない。そうなら・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・ 金曜日 総理大臣が乱暴な若者に狙撃された。それが金曜日であった。前にある首相が同じ駅で刺されたのが金曜日、その以前に某が殺されたのも金曜日であった。不思議な暗合であるというような話がもてはやされたようである。実際そ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ それほど無政府主義が恐いなら、事のいまだ大ならぬ内に、下僚ではいけぬ、総理大臣なり内務大臣なり自ら幸徳と会見して、膝詰の懇談すればいいではないか。しかし当局者はそのような不識庵流をやるにはあまりに武田式家康式で、かつあまりに高慢である。得・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ またあるいは人の説に、官立の学校を廃して共同私立の体に変じ、その私立校の総理以下教員にいたるまでも、従前、官学校に従事したる者を用い、学事会を開きて学問の針路を指示するが如きは、はなはだ佳しといえども、その総理教員なる者は、以前は在官・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・政府の考えによると放送委員会は総理庁の外局として独立してその権限を行うものとされている。放送委員は公共の利益を理解し公正な判断をもっている三十五歳以上のもののうちから五人を両院の承認をへて総理大臣がこれを任命するとされている。一般の不信と疑・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・ 翌日、総理大臣が来ると、陛下は早速書物机の上から、羊皮紙へ立派に書いた、新らしい詔を取って、『早速実行せよ』と云われた。開いて見ると、国中の人民は一人残らず耳殻を切り取れ。なぜなれば、神の選び給いし国王に耳殻が与えられていない・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・を書いた人物は、細君を離婚してまで、総理大臣として戦争犯罪者として掻き集めた財産を護ろうとした。軍人勅諭を日毎夜毎暗誦させて、それが出来ないとビンタを食わしていた将校たちは、遠い島々で、戦局が絶望になるとさまざまの口実をこしらえて飛行機で本・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫