・・・袴だと、拘泥しなければならない。繁雑な日本の tiquette も、ズボンだと、しばしば、大目に見られやすい。僕のような、礼節になれない人間には、至極便利である。その日も、こう云う訳で、僕は、大学の制服を着て行った。が、ここへ来ている連中の・・・ 芥川竜之介 「野呂松人形」
・・・出発の間際に起る繁雑な事情とその予想とがいつも実行を妨げてしまうのであった。人間も渡鳥のように、時節が来るや否や、わけもなく旧巣を捨てて飛去ることができたなら、いかに幸であったろう。昭和十二年丁丑四月稿・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ 事務室で、チリチリとベルが鳴り、係員がハアハア、ハアハア、と一種の玄人らしさで返事している、あのデンワで、この多忙、繁雑、非能率な国鉄運営の難事業を処理しているのではないだろうか。 各種の軍事施設は、おそらく優秀なラジオをもってい・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
出典:青空文庫