・・・でも夫の心は繋ぎ留めることが出来ませんでしたの。 ―――――――――――――――――――― 翌日の午後二時半にピエエル・オオビュルナンは自用自動車の上に腰を卸して、技手に声を掛けた。「ド・セエヴル町とロメエヌ町と・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・そもそも歌の腐敗は『古今集』に始まり足利時代に至ってその極点に達したるを、真淵ら一派古学を闢き『万葉』を解きようやく一縷の生命を繋ぎ得たり。されど真淵一派は『万葉』を解きて『万葉』を解かず、口には『万葉』をたたえながらおのが歌は『古今』以下・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・が、メイエルホリドの場合では、この称号が彼の才能を一定の場所に繋ぎとめるどんな材料ともなっていない。 メイエルホリドの天分の豊かなこと。それはソヴェトの観衆が十分知りぬいているどころか、世界に知られている事実。常に研究的で、新しい試みに・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・感情、感動の領域に所謂人情の従来の型における発露が多く繋ぎとめられている。芸術は人生に対する情熱によって創られ、情熱の諸相としての諸感情が活かされる。 心理学などの言葉で正確に表現出来ないが、私たちが女として人間として今日懸命に生きてい・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・ ロンブロゾーは、警察官の先入観念に一つの犯罪型という骨相上の分類を加えてやったが、失業と夫婦生活の破壊との生々しい関係、失業と売笑との直接な関係、大多数者の慰安ない生活と低劣なままに繋ぎとめられている文化水準とアルコール中毒との具体的・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・は、何と云う強靭さで私の背骨を繋ぎ合わせて居る事だろう。 皮の下に、肉の下に、繋ぎ合わされた骨と骨とを貫いて絶えず満ちて居る髄溶液を自覚して居るものが何処に在るだろうか。自然は生育の過程の何時の間にか、堅い折れ易い骨の裡に、流動する液体・・・ 宮本百合子 「無題」
出典:青空文庫