・・・若者の方でも女が人がよくて、優しくて、美しいので、お役人の所に連れて行って夫婦にして貰った。 ツァウォツキイはそれからも身持を変えない。ある時はどこかの見せ物小屋の前に立って客を呼んでいることもあるが、またある時は何箇月立っても職業なし・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
次の日曜には甲斐へ行こう。新緑はそれは美しい。そんな会話が擦れ違う声の中からふと聞えた。そうだ。もう新緑になっていると梶は思った。季節を忘れるなどということは、ここしばらくの彼には無いことだった。昨夜もラジオを聞いていると・・・ 横光利一 「微笑」
このデネマルクという国は実に美しい。言語には晴々しい北国の音響があって、異様に聞える。人種も異様である。驚く程純血で、髪の毛は苧のような色か、または黄金色に光り、肌は雪のように白く、体は鞭のようにすらりとしている。それに海・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ フィンクはこの静かな美しい声に耳を傾けた。そして思わず燃え下がったマッチでその方角を照して見た。なんだかヴェエルで顔をすっかり包んだ女のような姿がちらと見えたらしかった。そのうちマッチは消えて元の闇になった。 フィンクは今の声がま・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・というと、さも見下果たという様子を口元にあらわして、僕の手を思い入れ握りしめ、「どうしてどうしてお死になされたとわたしが申た愛しいお方の側へ、従四位様を並べたら、まるで下郎を以て往たようだろうよ」と仰有ってまたちょっと口を結び、力のなさそう・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・しかしその後の研究によれば、スーダンの民族の美しい衣服はアフリカ固有のものであってムハメッドの誕生よりも古い。またスーダンの国家の特有の組織はイスラムよりもはるか前からあり、ニグロ・アフリカの耕作や教育の技術、市民的な秩序や手工芸などは、中・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫