ほんのちょっとしたことからだったが、Fを郷里の妻の許に帰してやる気になった。母や妹たちの情愛の中に一週間も遊ばしてやりたいと思ったのだ。Fをつれてきてからちょうど一年ほどになるが、この夏私の義母が死んだ時いっしょに帰って、それもほんの・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・ 昨年の八月義母に死なれて、父は身辺いっさいのことを自分の手で処理して十一月に出てきて弟たちといっしょに暮すことになったのだが、ようよう半年余り過されただけで、義母の一周忌も待たず骨になって送られることになったのだった。実の母が死んです・・・ 葛西善蔵 「父の葬式」
・・・ 奥の間で信子の仕度を手伝ってやっていた義母が「さあ、こんなはどうやな」と言って団扇を二三本寄せて持って来た。砂糖屋などが配って行った団扇である。 姉が種々と衣服を着こなしているのを見ながら、彼は信子がどんな心持で、またどんなふ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・弥一の義母しづ、庭の物干竿より、たくさんの洗濯物を取り込みのさいちゅう。菊代の兄、奥田義雄は、六畳間の縁側にしゃがんで七輪をばたばた煽ぎ煮物をしながら、傍に何やら書籍を置いて読んでいる。斜陽は既に薄れ、暮靄の気配。第・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・ 又、義母はんが、何か、やな事云うてやな、 ほんにあかん。 栄蔵は、娘の言葉が、胸の中にスーと暖くしみ込んで行く様に感じた。 新聞を畳んで、栄蔵は買って来た花の鉢をのせた。 真紅な冬咲きの小さいバラの花が二三輪香りも・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫