・・・女も情を立てて帰らないから、両方とも、親から勘当になったんですね、親類義絶――つまるところ。 一枚、畚褌の上へ引張らせると、脊は高し、幅はあり、風采堂々たるものですから、まやかし病院の代診なぞには持って来いで、あちこち雇われもしたそうで・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・昨年の夏以来彼女の実家とは義絶状態になっていたのだが、この一月中旬突然彼女の老父危篤の電報で、大きな腹をして帰ったのだが、十日ほどで老父は死に、ひと七日をすます早々、彼女はまた下宿に帰ってきた。母も姉たちもいるのだが、彼女の腹の始末をつけて・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・がいよいよ来たようなので、様々の縁故にもお許しをねがい、或いは義絶も思い設け、こんなことは大袈裟とか、或いは気障とか言われ、あの者たちに、顰蹙せられるのは承知の上で、つまり、自分の抗議を書いてみるつもりなのである。 私は、最初にヴァレリ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 学者というものも、あの若い時に廃人同様になって、おとなしく世を送ったハルトマンや、大学教授の職に老いるヴントは別として、ショオペンハウエルは母親と義絶して、政府の信任している大学教授に毒口を利いた偏屈ものである。孝子でもなければ順民で・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫