・・・そしてズボンのひざをかかえていっそう考え込むのである。こんなふうで二週間もおおかた過ぎ、もう引き上げて帰ろうという少し前であったろう。一日大雨がふって霧が渦巻き、仕事も何もできないので、みんな小屋にこもって寝ていた時、藤野の手帳・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ 肇は又じいっと考え込む様な様子をした。「貴方だって私と同じ様に読んだり書いたりしていらっしゃる。 そいだのに読んだものの話なんか何故一度もなすった事がないんでしょう。 遠慮していらっしゃったんですか。「そう云う・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・ 頭を深くたれて考え込むものもあれば色紙の泣きそうな手で遠慮もなくのたらせるものもある。書かれる可(は三十一文字だか四文字だか分らないがその勢は目立ったもので有る。若君はあふれた水を流すよりもたやすくそのみちみちた心のたったほんの一寸し・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・宇平は腕組をして何やら考え込む。只りよ一人平作の家族に気兼をしながら、甲斐々々しく立ち働いていたが、午頃になって細川の奥方の立退所が知れたので、すぐに見舞に往った。 晩にりよが帰ると九郎右衛門が云った。「おい。もう当分我々は家なんぞはい・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫