・・・……「承れば、その頃京都では、大石かるくて張抜石などと申す唄も、流行りました由を聞き及びました。それほどまでに、天下を欺き了せるのは、よくよくの事でなければ出来ますまい。先頃天野弥左衛門様が、沈勇だと御賞美になったのも、至極道理な事でご・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・楢山の女権論者――と云ったら、あるいは御聞き及びになった事がないものでもありますまい。当時相当な名声のあった楢山と云う代言人の細君で、盛に男女同権を主張した、とかく如何わしい風評が絶えた事のない女です。私はその楢山夫人が、黒の紋付の肩を張っ・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・且又この批評家の亜流も少くないように聞き及びました。その為に一言広告します。尤もこれを公にするのはわたくしの発意ではありません。実は先輩里見さとみとん君の煽動によった結果であります。どうかこの広告に憤る読者は里見君に非難を加えて下さい。「侏・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・或暮年の頃廿五六なる若侍一人、諏訪の前を通りけるに常々化物あるよし聞及び、心すごく思いけるおり、又廿五六なる若侍来る。好き連と思い伴いて道すがら語りけるは、ここには朱の盤とて隠れなき化物あるよし、其方も聞及び給うかと尋ぬれば、後より来る若侍・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・三好とは聞き及びたる資産家なり。よし。大いによし。あだに費やすべきこの後の日数に、心慰みの一つにても多かれ。美しき獲物ぞ。とのどかに葉巻を燻らせながら、しばらくして、資産家もまた妙ならずや。あわれこの時を失わじ。と独り笑み傾けてまた煙を吐き・・・ 川上眉山 「書記官」
出典:青空文庫