・・・ある日ある学会である論文を発表したその晩に私の宅へ遊びに来てトリオの合奏をやっていたら、突然某新聞記者が写真班を引率して拙宅へ来訪しそうして玄関へその若い学者T君を呼び出し、その日発表した研究の要旨を聞き取り、そうしてマグネシウムの閃光をひ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・某国政府では詳しくその発明の内容を聞き取り、若干の実験までもした後に結局その採用は拒絶してしまった。しかしどういうものかそれ以来その某国のスパイらしいものがB教授の身辺に付きまつわるようになった、少なくもB教授にはそういうふうに感ぜられたそ・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・プランクの講義も言葉が明晰で爽やかで聞取りやすい方であった。第一回の講義の始めに、人間本位の立場から物理学を解放すべきことや物理的世界像の単一性などに関する先生の哲学の一とくさりを聞かせた。綺麗に禿げ上がった広い額が眼について離れなかった。・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・ら、わたくしがあなたと御一しょでいい心持がいたしていると云うことやら、わたくしがあなたを少しこわがっていると云うことやら、またそのこわいのがかえっていい心持でいると云うことやら、まあ、いろいろな事を御聞取りになることが出来ましたでございまし・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
出典:青空文庫