・・・ 文明を誇る日本帝国には国民の安寧を脅かす各種の災害に対して、それぞれ専門の研究所を設けている。健康保全に関するものでは伝染病研究所や癌研究所のようなもの、それから衛生試験所とか栄養研究所のようなものもある。地震に関しては大学地震研究所・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ Miserable misanthrope この言葉が時々自分を脅かす。人間を愛したいと思う希望だけは充分にもっていながら、あさはかな「私」にさえぎられてそれができないで苦しんでいるわれわれが、小動物に対してはじめて純粋な愛情を傾けう・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・ それでも、職長仲間の血縁関係や、例えば利平のように、親子で勤めている者は、その息子を会社へ送り込んで、どうやら、二百人足らずのスキャップで、一方争議団を脅かすため、一面機械を錆つかせない程度には、空の運転をしていたのである。「君、・・・ 徳永直 「眼」
・・・ 満州で侵略戦争を開始し、戦争熱をラジオや芝居で煽るようになってから、皮肉なことにカーキ色の癈兵の装で国家のためと女ばかりの家を脅かす新手の押売りが流行り、現に保護室にそんなのが四五人引っぱられて来ているのであった。 そんな話を聞い・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・嘗て純文学の精神の守護であった芸術性はとんぼ返りをうって、鬼面人を脅かす類のものに転化したのである。 以上の瞥見は、私たちに今日、何を教えているであろうか。現実に即した観察は、批判精神というものが決して抽象架空に存在し得るものではなくて・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・ストライキする労働者に対して、彼等は工場閉鎖で脅かす。働かないで食えるのは、企業家たちである。政府が最も「断乎」糾弾すべき本体は、このサボタージュのそれにある。しかし政府は、このことについては沈黙を守っている。自身、その企業家サボタージュと・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ひいては皇室の安泰を脅かすものである。なぜなら道の代表者を特殊思想の代表者と混同するような馬鹿者が出てくるからである。 小生はこの考えが老父の了解を得ることを信じて右の手紙を発送した。 これが一つの私事の顛末である。・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫