・・・ 二三年前に、過去の身辺小説の狭さがとりあげられ、そこからの脱出として、よりひろい社会的な題材へ一部作家の関心が向けられて、少しそういう作品が出かかったとき、事変になって、急速に周囲の調子が変った。題材から云えば、そのまま一層ひろく、ひ・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・自分の生涯にはない、境遇からの脱出の物語だった。太閤記と云う名をきいただけで、日本の庶民の伝承のうちにめをさます予備感情がある。だから、戦時中は小才のきく部隊長のような藤吉郎が清洲築城に活躍しても、よむ人は、逆に、やっぱり秀吉ほどの人物は、・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・私のように、中国文化について知らない者でさえも、謝冰心女士の名は聞いて久しいし、郭沫若と云えば、彼が日本の家の内に愛妻と愛子たちとをのこし故国へ向って脱出した朝の物語までを、心に銘して知っている。 だが、中国の社会の歴史は、近代企業とし・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ディフォーメイションは大づかみにいえばそのものとして発展する新しさを失った、近代の資本主義の社会の現実の中で、それを本質的に飛躍させる力をもたない精神が物憂く非人間的な現実からの脱出をもとめてもがきまわった、落着きない眼玉にうつった事象であ・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・わたし達は、自身が餓えつつあるとき、せめては何が故に、自分達はこうも飢じいのか、ということを知り学び、そこから脱出する方法を発見しようとする旺盛な人間的意欲をもつのであるから。その足しになるものなら、一冊の本の買えるうちにこそ買われなければ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・のような脱出の角度と形態は、その会にあつまった人々に種々の試練を与えて成長させるか、或いは空中分解をさせてしまうかするであろうほかに、直接その会に関係をもっていない一般の人たちに、多くの問題を示唆する。そして、たとえ「雲の会」そのものが地上・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・小市民的な排他的な両親の家庭から脱出したつもりで四辺を見まわしたら、自分と対手とのおちこんでいるのは、やっぱりケチな、狭い、人間的燃焼の不足な家庭の中だった。檻の野獣のように苦しんだ。対手をも苦しめた。対手は十五年アメリカで苦労したあげ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・民族の血の力に追いこまれた人々にふたたび高い人間的脱出を示す可能をひそめる題材である。けれども、中里恒子の文学はそういう環境の女性のしつけのよさと良識、ややありきたりの教養の判断にとどまっていて、作家として偶然めぐり合っている苦しい可能性を・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 異国情調を求めて来ていた群司次郎正は一躍、「ハルビン脱出記」の筆者となった。文中何というかと思うと「支那人の心情は根本的に獣である。これをよく知っているのはロシア人たちである。かつてハルビンが帝政華かなりし頃はロシア人は支那人を鞭で打・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・というような小説をかいた白鳥が、こんにちでは日本の現実からはなれて「日本脱出」という風な作品をかいて、小説までも知覚的な気まぎらしであることに同意していることは、自然主義的な白鳥のリアリズムのこんにちにおける敗北を語っている。 文学・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫