・・・ レークジョージの机の上で、かげろうが脱皮した。 五来素川氏の大観に出された「社会革命の将来と国民の覚悟」を読む。失望に近い程度に於て雑駁なものだ。なかに、 仏国の「瑠璃の浜辺」にある辟寒地で、二万人を入れるカジノの中に・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・ 明治以来の文化の成長は未だ封建を脱皮しきっていなくて、日本の社会と家庭の生活における少年たち少女たちの存在は、自分を一人の人間として明瞭に自覚することを非常におくらされて来ている。青年期にずっと近づいて初めて自分の周囲に対する目と心と・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
・・・頑癬からは白い脱皮がめくれて来た。そうして、暫くは森閑とした宮殿の中で、脱皮を掻きむしるナポレオンの爪音だけが呟くようにぼりぼりと聞えていた。と、俄に彼の太い眉毛は、全身の苦痛を受け留めて慄えて来た。「余はナポレオン・ボナパルトだ。余は・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫