・・・が、これらは、余り人口に膾炙しすぎて居りますから、ここにはわざと申上げません。私は、それより二三の権威ある実例によって、出来るだけ手短に、この神秘の事実の性質を御説明申したいと思います。まず Dr. Werner の与えている実例から、始め・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・ 漢土には白雨を詠じたる詩にして人口に膾炙するもの東坡が望湖楼酔書を始め唐韓かんあくが夏夜雨、清呉錫麒が澄懐園消夏襍詩なぞその類尠からず。彼我風土の光景互に相似たるを知るに足る。 わが断腸亭奴僕次第に去り園丁来る事また稀なれば、庭樹・・・ 永井荷風 「夕立」
・・・ この他、『唐詩選』の李于鱗における、百人一首の定家卿における、その詩歌の名声を得て今にいたるまで人口に膾炙するは、とくに選者の学識いかんによるを見るべし。わずかに詩歌の撰にして、なおかつ然り。いわんや道徳の教書たる倫理教科書の如きにお・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・我が王朝文弱の時代にその風を成し、玉の盃底なきが如しなどの語は、今に至るまで人口に膾炙する所にして、爾後武家の世にあっては、戸外兵馬の事に忙わしくして内を修むるに遑なく、下って徳川の治世に儒教大いに興りたれども、支那の流儀にして内行の正邪は・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・フランクリンの凧の逸話は人口に膾炙しているが、一七五二年の九月の暴風雨のその一夜にいたる迄には、ギリシャ人たちが琥珀の玉をこすっては、軽いものを吸いつけさせて遊んでいた時代から二千年もの人類の歴史がつみ重ねられて来ている。電気――エレキへの・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
出典:青空文庫