・・・永禄年中三好家の堺を領せる時は、三十六人衆と称し、能登屋臙脂屋が其首であった。信長に至っては自家集権を欲するに際して、納屋衆の崛強を悪み、之を殺して梟首し、以て人民を恐怖せしめざるを得無かったほどであった。いや、其様な後の事を説いて納屋衆の・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・濃紅色の花を群生させるが、少しはなれた所から見ると臙脂色の団塊の周囲に紫色の雰囲気のようなものが揺曳しかげろうているように見える。 人間の色彩といったようなものにもやはりこうした二種類があるように思われる。少なくも芸術的作品はそうである・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・山牛蒡の葉と茎とその実との霜に染められた臙脂の色のうつくしさは、去年の秋わたくしの初めて見たものであった。野生の萩や撫子の花も、心して歩けば松の茂った木蔭の笹藪の中にも折々見ることができる。茅葺の屋根はまだ随処に残っていて、住む人は井戸の水・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・すんなり枝を延ばし梢高く、樹肌がすべすべで薄紅のに、こちゃこちゃ、こちゃこちゃとかたまって濃緑、臙脂、ぱっとした茶色などの混った若芽が芽ばえ出している。ちょうど若葉の見頃な楓もあったが、樹ぶりが皆、すんなり、どちらかというと細めで素直だ。石・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
出典:青空文庫