・・・デュガールは、ジャックをとりかこむそれぞれの時期における社会的環境の特質とジャックの人間性の覚醒――自意識のめざめの段階とを対決させつつ、ジャックとその社会の動きを描いている。ジャックという一人の人間が、一定の社会史の期間をとおして、その矛・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・と云う自意識が心を掠めた瞬間に、もう云うに云われない妥協が自分に向って付けられてしまう。自分の真正な判断に委せれば、それは理論では正しいかも知れない。然し今まで平穏に自分の囲を取捲いていた生活の調子は崩れてしまうだろう、自分はまるで未知未見・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・これは、とくにこの戦争以来、私たちの精神をいためつづけてきた暴力によってつくられた、われわれの内部的な抗議の自意識へ固執する癖、という複雑な社会史的コムプレックスをとりあげて、それをほぐし、そこまで飛躍することであろうと思う。 今日・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・けれども、その中間の重心に、自意識という介在物があって、人間の外部と内部とを引裂いているかの如き働きをなしつつ、恰も人間の活動をしてそれが全く偶然的に、突発的に起って来るかの如き観を呈せしめている近代人というものは、まことに通俗小説内におけ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして横光氏は、彼によって何ものかである如く示される自意識の整理の要としてモチーフを見ている。「作家の世界像という観念構成に関する希いは、この意識の整理の必要から生じて来たのである。これを云いかえると、近来の作家にとっては、あらゆるテーマと・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ 然し、自意識の欠乏は、同じ女性である者にも尚一種の歯痒さを与える事も否めません。自意識の欠乏は生活のあらゆる角に、力の弱い朦朧さを与えます。総てから決然たる決定が奪われます。積極が逃げて仕舞います。 そして田野に円舞して、笑いさざ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・「高邁なる精神」「自己探求」「自意識の文学」等の標語は悉く、以上のような当時の文学精神によったものであった。「新興芸術派」時代「主知的文学論」をもって立った阿部知二の「知性」の本質も根本に於てはやはり横光利一の「高邁なる精神」と同様に、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・現代は大小の文学的才能が、自身の才能の自意識であらぬ方にそれぬためには、よそめに分らぬ程野暮な、根気づよい逆流への抵抗が必要なのである。しかも、本質における逆流は時に称讚、拍手、とりまきの形で作家の身辺にあらわれる時代においておやである。〔・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・させているらしいけれども、あらゆる時代、何事かを為す一個の人の力は、実に複雑な歴史の動きに内外から影響され、それに影響するものとして現われるのであるから、さきにあげたような読書を背景として、この英雄的自意識のつよい一個の人の著作も読まれなけ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・るとか、あるいは進んで作者はそれを意企していないであろうが、資本主義社会機構を計らずもあばいているではないかなど、合理化をしている姿をみれば、先ず作者である横光利一が、ふん、と豪腹そうに髪をはらって、自意識ないプロレタリア作家を見下し、うそ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
出典:青空文庫