・・・かれの手さぐりにて自記した日記は、それらの事情を、あますところ無く我らに教える。勾当、病歿せしは明治十五年、九月八日。年齢、七十一歳也。 以上は、私が人名辞典やら、「葛原勾当日記」の諸家の序やら跋やら、または編者の筆になるところの年譜、・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・の機械の指示する示度を機械的に読み取って時々手帳に記入し、それ以外の現象はどんな事があっても目をふさいで見ないことにする流儀の研究ではなんの早わざもいらない、これには何も人間でなくてもロボットもしくは自記装置を使えばすむことである。しかしこ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 彼と春岳との関係と彼が生活の大体とは『春岳自記』の文に詳なり。その文に曰く橘曙覧の家にいたる詞おのれにまさりて物しれる人は高き賤きを選ばず常に逢見て事尋ねとひ、あるは物語を聞まほしくおもふを、けふは此頃にはめづらし・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 蕪村の理想を尚ぶはその句を見て知るべしといえども、彼がかつて召波に教えたりという彼の自記はよく蕪村を写し出だせるを見る。曰く其角を尋ね嵐雪を訪い素堂を倡い鬼貫に伴う、日々この四老に会してわずかに市城名利の域を離れ林園に遊び山水・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫