・・・歴史的に人類の生活を考察するとかくあることが至当なことである。 しかしながら思想的にかかる問題を取り扱う場合には必ずしもかくある必要はない。人間の思想はその一特色として飛躍的な傾向をもっている。事実の障礙を乗り越して或る要求を具体化しよ・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・だけれども僕の人生哲学としては、僕は僕自身を至当に処理していくほかに、周囲に対しての本当に親切なやり方というものを見いだすことができない。僕自身を離れたところに何事かを成就しうると考える軽業のような仕事はできない。僕の従来の経験から割り出さ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・そこまで満蔵さんに見られちゃア、とにかく省作さんはおごるが至当だっぺい。うん人の女房だって何だって、女に惚れられっちは安くない、省作さん……」 兄はまさかそんな話の仲間にもなれないだろう、むずかしい顔をしている。政さんは兄の顔に気がつい・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ しかし、このことは、一般が冷淡なる程、しかく差迫っていない問題であろうか、すでに、社会上の役割を終った老人等が、彼等の老後、貧困に陥り、衣食に窮するに至るとせば、当然、その責をこの社会が負うことを至当とするからである。これについては、別・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・現在に於いても、大凡の芸術は、これまでの文化の擁護と見做されていると見るのが至当であろう。 然し敢て言うが、これらは私の求むるところの詩ではない。私達の詩は疑から始まっている。今迄の詩が休息の状態、若しくは、静息の状態に足を佇めているも・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・この運動に参加したものは年少気鋭の学生であり新思想家であるのを見ても、奴隷化した宗教に対する反感と、いわゆる人道主義と愛というものに対する冒険と憤激とであると見るのが至当であろう。然も現下の支那に於ける思想上の混乱に際し、世界キリスト教青年・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・そしてもし心の内に、美しい文字や流行の文句を使ってみたいから書こうとしたのだと心づいたら、それは一行の文章を成さなかったのが至当なのである。その人はそういう文章を作ろうとしたことに対して、まず愧じることを悟らねばならない。 もしまた已む・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
・・・そして、そうした悲惨な事実は、都会に於てゞばかりでなく、至るところにあると見るのが至当であります。都会の多くの新聞は、そうした事実について必ずしも知らぬのでない。たゞ人々があまり遠いところのことに対しては、刺戟も同情もないというだけの理なの・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・だから、ここで戦争文学として取扱うことは至当ではないが、たゞこれが当時の多くの大衆に愛誦された理由が、浪子の悲劇だけでなく、軍人がその中に書かれ、戦争が背景に取り入れられ、戦時気分に満たされていたことに存在するのを注意しなければならない。そ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・指に持ちにくくなった鉛筆などは必らず少し太い筆の軸へ挟んで用いて居て、而もこれを至当の事と信じて居ました。種善院様も非常に厳格な方で、而も非常に潔癖な方で、一生膝も崩さなかったというような行儀正しい方であったそうですが、観行院様もまた其通り・・・ 幸田露伴 「少年時代」
出典:青空文庫