・・・医者は、これを致命的危険のシムボルとするのである。人民の貯蓄は、昨年末から、大干潮のように減少しつづけた。反対に、物価は、上へ、上へと、のぼりつめて、二本の線を、もすこしのばせば、其は完全な十の字となってぶっちがうところ迄来た。モラトリアム・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・或る状態の裡からあるがままの自己をひっさげて出て来さえすれば、精神を自由にすることが出来ると思い込みかけたところに、この期の致命な危険が隠されていました。今思うと、実におそろしい。情熱は反動的に働く性質を有つ為本性とはぐっと歪んだ路に、自己・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・このようなところから考えても、ドストエフスキイが伯爵であるトルストイの作を評して、庶民というものをトルストイは知っていないと片づけたのも、トルストイにとっては致命的な痛さだったにちがいない。貴族のことを好んで書いたバルザックも誰か無名の貴族・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・しかし愛を感じない人の短所は、多くの場合致命的に見える。私はともすればそういう人の長所や苦しみや努力を見脱してしまう。そうしてその際、自欺の衣を剥ぎ偽善の面をもぐような、思い切った皮肉の矢を痛がる所へ射込む、ということに、知らず知らず興味を・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫