・・・何だか雲右衛門か何かが興行のため乗り込んだようである。社の方から云えばあの方がよいのでしょうが、夏目漱石氏から云えばああ曝しものになるのはあまりありがたくない。なお車の上で観察すると往来の幅がはなはだ狭い。がそれは問題ではない、私の妙に感じ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・なのでところどころで興行物があった。その雑報がある。「アクエリアム」で熊使いが熊を使うと云う事が載っている。熊が馬へ乗って埒の周囲をかけ廻る、棒を飛び超える、輪抜けをすると書いてある。面白そうだ。此度は広告を見た。「ライシアム」で「アーヴィ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・吉本興業のような漫才発明の興行者から、今度除名された講談社まで、彼等の尨大な富は、地方を文化の市場として、地方の低さを餌食にして、築き上げられたのである。 都会の文化と地方の文化とは分裂させられていた。企業家にとって、地方は、文化的殖民・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・明治座八月興行の立看板が出ていて「彦六大いに笑う」三好十郎作、杉本良吉演出、井上正夫、水谷八重子、岡田嘉子などと出ていて、これも面白くみました。私は先日来、ゴーリキイの研究を本にするために大変勉強したので、一息いれるのと暑さにうだったのとで・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 生活感情の不安定さをつきつめず、おどろきを失い、その日暮しになって、その不安定さから現象としてはあらゆる興行物や飲食店の満員、往来の夥しい人出となって動いている。本がどんどん売れ次から次と読まれてゆくことのうちにやはりこの心理があ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・ターキーは、もっと明るくて健康であり、若い娘の扮する男役の効果については、彼女自身が自覚するより先にぬけ目ない興行者が知っていたのであったろう。男のような、それで実は若い女であることが若い娘に安心して熱中出来るゆとりを与えることは明瞭である・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・中にも西洋の誰やらの脚本をある劇場で興行するのに、木村の訳本を使った時にこのお極りの悪口が書いてあった。それがどんな脚本かと云うと、censure の可笑しい程厳しいウィインやベルリンで、書籍としての発行を許しているばかりではない、舞台での・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・しくしたと云って、帰ってから尋ねて来る同族の人も、秀麿は随分勉強をしているが、玉も衝けば氷滑りもすると云う風で、上流の人を相手にして開いている、某夫人のパンジオナアトでは、若い男女の寄宿人が、芝居の初興行をでも見に行くとき、ヴィコント五条が・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・赤や青や黄な紙に、大きい文字だの、あらい筆使いの画だのを書いて、新らしく開けた店の広告、それから芝居見せものなどの興行の広告をするのである。勿論柱はただ一本だけであって、これに張るのと、大門町の石垣に張る位より外に、広告の必要はない土地なの・・・ 森鴎外 「独身」
・・・ 今来たのはその興行師である。Imprアンプレサリオ である。「こっちへ這入らせて下さい」とロダンはいった。椅子をも指さないのは、その暇がないからばかりではない。「通訳をする人が一しょに来ていますが。」機嫌を伺うように云うのであ・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫