・・・例のスグカエレであるから、早速舎監に話をして即日帰省した。何事が起ったかと胸に動悸をはずませて帰って見ると、宵闇の家の有様は意外に静かだ。台所で家中夕飯時であったが、ただそこに母が見えない許り、何の変った様子もない。僕は台所へは顔も出さず、・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・娘たちはこの学校へいれられたが最後みんなおそろいの棒縞の制服を着せられて五か月たつまでは一回の外出も許されずに、厳重な舎監のいわゆるプロイセン的な規律のもとに教育を受けなければならないのである。プロイセン軍国的訓練のために生徒たちは「特にお・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・しかし格別の大失態というほどの事もなくて、後には教頭や舎監も勤めているのを見ると、そういう地位にでもどうにか適応するだけのものはやはり備えていたものと見える。亮の子供の時からの外見だけで彼を判断していた老人などは、そういう役目の勤まるのをむ・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・―― 二人の後姿が、見えないようになると、何と云う訳なのか、私は、学校の舎監室に逃げ込んだ。そして、声を震わせて「かくまって下さい」と云い、大きな婦人の机の下に這い込んだ。可笑しいことに、其処に居る婦人は皆、西洋人である。丁度、・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・ 校長は小さい猪口に三四杯飲んですっかり機嫌になり、自分等が若かった時、寄宿舎で夜中に食物をとりに行って小使だと思って舎監にソーット醤油を呉れと云って、それなり懐に一杯薯を抱いてつかまった事を、顔中の和毛をそよがせながら話した。そして炬・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・その傍に藩主の立てた塾の舎監をしている、三枝と云う若い文学士がいた。私は三枝と顔を見合せたので会釈をした。 すると三枝が立って私の傍に来て、欄干に倚って墨田川を見卸しつつ、私に話し掛けた。「随分暑いねえ。この川の二階を、こんなに明け・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫