・・・私になつかぬ、けれども素晴らしい良種の猟犬をさえ、私は涙をのんで手離した。誰が手離したのか。もちろん私である。けれども世評、そいつが私に手離させた猟犬も二、三あったのである。 いったい、小説の中に、「私」と称する人物を登場させる時には、・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・郷里の父に頼んで良種を選定し、数本の苗を東京へ送ってもらった。これがさらに佐野博士の手で伊東に送られ移植された。そしてこの苗の生長を楽しみにしておられた博士は不幸にして夭折されたのである。亡くなられる少し前に、たしかこれらの楊梅が始めて四つ・・・ 寺田寅彦 「郷土的味覚」
・・・国民の大多数はやはり純良種の日本人であって米の飯とたくあんを食い、われら固有の民謡をうたい、われらの踊りを踊っている。そうして連句に現われているそのままの日本人の生活をまさしく生活しつつあるのである。従ってこれらの大多数の純日本人は当然に俳・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫