・・・母のジェニファーは、ほかならぬ女相手のしかも衣裳屋として成功し、立派な店をも持っているからには、純情であろうと十分この世の良識はそなえている筈ではないだろうか。二人の娘たちに対して、受け身に、曖昧に、謂わばイレーネに見つけられたという工合で・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・その貧しさ乏しさは、若い世代の男の子女の子のつき合いについての判断についても良識を欠くことになってたとえば相当な年になった息子たちや娘たちは自分たちの交友を家の外でするという結果をも導き出していると思う。 どんな若いひとたちにしろ、ただ・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・政治が、わたしたちの社会的な良心と道義、そして良識の判断に土台をおいた動きである以上、明日に育つきょうの小さいものを正しく評価するということは、全く当然なことではないだろうか。政治について婦人のもたなければならない自覚をもてと云われるなら、・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・というところを読んだものは、歴史家である著者がこの大芸術家の識見を正しくつたえつつ、自身の芸術に対する良識と感性によって、おのずから今日の芸術が、特に今一度とりあげて考え直さねばならない芸術上の諸課題にも触れているのを痛感するであろう。例え・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・自身の出血に耐えながら人類の正義と解放のためにその社会主義祖国を防衛することで、同時にフランスとドイツの人民的自由を、アメリカとイギリスの進歩的な良識を、防衛し解放する実行者、そのリアルな語りて、平和のための不屈なたたかいてとして、ソヴェト・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・な主婦、母になりたいと答えたそうであるが、この如き必然性を欠いた返事に反映している現代日本の教育方針に対する疑いと、日本文化中央連盟の事業の指導精神に対する疑いとは同一の性質をもって、真に日本を愛する良識ある人々の心にある憂いを抱かせるもの・・・ 宮本百合子 「世界一もいろいろ」
・・・ 三鷹事件が、多くの良識ある人にとって不明瞭な性質のものとしてうけとられているからと云って、検事が「でっちあげ」ていいというものだろうか。わたしたち一人一人が、どんなかのゆきがかりで、何かの不明瞭ないざこざに巻きこまれたとき、「でっちあ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ここに、現代ジャーナリズムに対する読者の声、要求の深い意義とその積極性への翹望があり、又、編輯部の文化人としての良心、良識を今日にあっても絶望せしめない或るものがあると信じられるのである。〔一九三七年十一月〕・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
・・・アメリカの常識の良識と誇りあるべき民主主義にとって、今日ほど貴重である時期はない。なぜなら現代のアジアは何かの権勢によって単に処理されるべきところとして存在しているのではないのだから。 ジョン・ハーシーが、天津に育っている外国人の少年と・・・ 宮本百合子 「「ヒロシマ」と「アダノの鐘」について」
・・・けれども、中里恒子の文学はそういう環境の女性のしつけのよさと良識、ややありきたりの教養の判断にとどまっていて、作家として偶然めぐり合っている苦しい可能性を生かしきっていない。題材に匹敵する創作の方法が、この作家のところにないのは残念である。・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
出典:青空文庫