・・・植物でも少しいじめないと花実をつけないものが多いし、ぞうり虫パラメキウムなどでもあまり天下泰平だと分裂生殖が終息して死滅するが、汽車にでものせて少しゆさぶってやると復活する。このように、虐待は繁盛のホルモン、災難は生命の醸母であるとすれば、・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・そのうちで地味に適応したものが栄えて花実を結ぶであろう。人にすすめられた種だけをまいて、育たないはずのものを育てる努力にひと春を浪費しなくてもよさそうに思われる。それかといって一度育たなかった種は永久に育たぬときめることもない。前年に植えた・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・発句すなわち今の俳句はやはり連歌時代からこれらの枝の節々を飾る花実のごときものであった。後に俳諧から分岐した雑俳の枝頭には川柳が芽を吹いた。 連歌から俳諧への流路には幾多の複雑な曲折があったようである。優雅と滑稽、貴族的なものと平民的な・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・死んで花実が咲こかいな、苦しむも恋だって。本統にうまいことを言ッたもんさね。だもの、誰がすき好んで、死ぬ馬鹿があるもんかね。名山さん、千鳥さん、お前さんなんぞに借りてる物なんか、ふんで死ぬような吉里じゃアないからね、安心してえておくんなさい・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫