・・・が、一度句作に遠ざかった祟りには忽ち苦吟に陥ってしまう。どうも蛇笏君などから鞭撻を感じた往年の感激は返らないらしい。所詮下手は下手なりに句作そのものを楽しむより外に安住する所はないと見える。おらが家の花も咲いたる番茶かな 先輩たる蛇・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・また、普通にいわゆる常識的にわかりきったと思われることで、そうして、普通の意味でいわゆるあたまの悪い人にでも容易にわかったと思われるような尋常茶飯事の中に、何かしら不可解な疑点を認めそうしてその闡明に苦吟するということが、単なる科学教育者に・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・々この四老に会してわずかに市城名利の域を離れ林園に遊び山水にうたげし酒を酌みて談笑し句を得ることはもっぱら不用意を貴ぶ、かくのごとくすること日々ある日また四老に会す、幽賞雅懐はじめのごとし、眼を閉じて苦吟し句を得て眼を開く、たちまち四老の所・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫