・・・その茶の間の一方に長火鉢を据えて、背に竹細工の茶棚を控え、九谷焼、赤絵の茶碗、吸子など、体裁よく置きならべつ。うつむけにしたる二個の湯呑は、夫婦別々の好みにて、対にあらず。 細君は名をお貞と謂う、年紀は二十一なれど、二つばかり若やぎたる・・・ 泉鏡花 「化銀杏」
・・・来るたんびに何かないかって、茶棚を探すのや。お酒も好きですね」お絹は癖で、詰まったような鼻で冷笑うように言った。「今でもやっぱり遊ぶのかね」「どうやら。家へあまりいらしゃらんさかえ。前かって、そうお金を費ったという方じゃないですもの・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・と、持ッて来た茶碗小皿などを茶棚へしまいかけた。「なにもう寝なくッても――こんなに明るくなッちゃア寝てもいられまい。何しろ寒くッて、これじゃアたまらないや。お熊どん、私の着物を出してもらおうじゃないか」「まアいいじゃアありませんか。・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫