・・・ついでに、いまののありそうな処へ案内して、一つでも二つでも取らして下さい、……私は茸狩が大好き。――」と言って、言ううちに我ながら思入って、感激した。 はかない恋の思出がある。 もう疾に、余所の歴きとした奥方だが、その私より年上・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・また茸狩にだって、あんなに奥まで行くものはない。随分路でもない処を潜ったからな。三ツばかり谷へ下りては攀上り、下りては攀上りした時は、ちと心細くなった。昨夜は野宿かと思ったぞ。 でもな、秋とは違って、日の入が遅いから、まあ、可かった。や・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ されば予が茸狩らむとして来りしも、毒なき味の甘きを獲て、煮て食わむとするにはあらず。姿のおもしろき、色のうつくしきを取りて帰りて、見せて楽ませむと思いしのみ。「爺や、この茸は毒なんか。」「え、お前様、そいつあ、うっかりしようも・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・今ごろ備中総社の町の人たちは裏山の茸狩に、秋晴の日の短きを歎いているにちがいない。三門の町を流れる溝川の水も物洗うには、もう冷たくなり過ぎているであろう。 待つ心は日を重ね月を経るに従って、郷愁に等しき哀愁を醸す。郷愁ほど情緒の美しきも・・・ 永井荷風 「草紅葉」
出典:青空文庫