・・・ 音が通い、雫を帯びて、人待石――巨石の割目に茂った、露草の花、蓼の紅も、ここに腰掛けたという判官のその山伏の姿よりは、爽かに鎧うたる、色よき縅毛を思わせて、黄金の太刀も草摺も鳴るよ、とばかり、松の梢は颯々と、清水の音に通って涼しい。・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・ まだ船底を踏占めるような、重い足取りで、田畝添いの脛を左右へ、草摺れに、だぶだぶと大魚を揺って、「しいッ、」「やあ、」 しっ、しっ、しっ。 この血だらけの魚の現世の状に似ず、梅雨の日暮の森に掛って、青瑪瑙を畳んで高い、・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・角の九つある、竜が、頭を兜に、尾を草摺に敷いて、敵に向う大将軍を飾ったように。……けれども、虹には目がないから、私の姿が見つからないので、頭を水に浸して、うなだれ悄れている。どれ、目を遣ろう――と仰有いますと、右の中指に嵌めておいで遊ばした・・・ 泉鏡花 「紅玉」
出典:青空文庫