大町先生に最後にお目にかゝったのは、大正十三年の正月に、小杉未醒、神代種亮、石川寅吉の諸君と品川沖へ鴨猟に往った時である。何でも朝早く本所の一ノ橋の側の船宿に落合い、そこから発動機船を仕立てさせて大川をくだったと覚えている・・・ 芥川竜之介 「鴨猟」
・・・室、外科室より二階なる病室に通うあいだの長き廊下には、フロックコート着たる紳士、制服着けたる武官、あるいは羽織袴の扮装の人物、その他、貴婦人令嬢等いずれもただならず気高きが、あなたに行き違い、こなたに落ち合い、あるいは歩し、あるいは停し、往・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・飯田橋で三時すぎYと落ち合い、万世橋行の電車に乗った。「網野さんに行く先まだ秘密なのよ」「え?――何処です――銀座の方じゃあないんですか」「違うらしいわ」 網野さんは九月中から暫く東京を離れることになっていた。ただ御飯を食べ・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・スウェーデンの若い女王クリスチナがスペインから王の求婚使節になって来たある公爵だかと、計らず雪の狩猟の山小舎で落ち合い、クリスチナが男の服装なのではじめ青年と思い一部屋に泊り、三日三晩くらすうちクリスチナが女であることがわかり互に心をひきつ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ そういううるささをさけて、じゃ、いっそどこそこで落合いましょうよ、ということになって、種々雑多な彼女たちが街頭に溢れて来る次第なのだ。 みじめっぽく小さい同胞たちがごたついている小さい貧相なわが家なんかを友達に見せたくない職場の娘・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
出典:青空文庫