・・・ と、直ぐに言い返して、あとは入りみだれて、「おのれは、正月の餠がのどにつまって、三カ日に葬礼を出しよるわい」「おのれは、一つ目小僧に逢うて、腰を抜かし、手に草鞋をはいて歩くがええわい」「おのれこそ、婚礼の晩にテンカンを起し・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・ ほこりっぽい、乾苦しい、塩っ辛い汗と涙の葬礼行列の場面が続いたあとでの、沛然として降り注ぐ果樹園の雨のラストシーンもまた実に心ゆくばかり美しいものである。しかしこのシーンは何を「意味する」か。観客はこのシーンからなんら論理的なる結論を・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・帰路のバスを待っていると葬礼の行列が通る。男は編笠を冠り白木綿の羽織のようなものを着ている。女は白頭巾に白の上っ被りという姿である。遺骨の箱は小さな輿にのせて二人でさげて行くのである。近頃の東京の葬礼自動車ほど悪趣味なものも少ないと思う。そ・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ その翌日が愈々此処で葬礼と云うことなんで、その時隊の方から見送って下さったのが三本筋に二本筋、少尉が二タ方に下副官がお一方……この下副官の方は初瀬源太郎と仰也って、晴二郎を河から引揚げて下すった方なんでござえして、何かの因縁だろうから・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・ ――何故にわれわれは、不幸を不幸と感じなければならないのであろう。 ――何故にわれわれは、葬礼を婚礼と感じてはいけないのであろう。 彼はあまりに苦しみ過ぎた。彼はあまりに悪運を引き過ぎた。彼はあまりに悲しみ過ぎた、が故に、彼は・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫