・・・こういうと私が酒や女をむやみに推薦するようでちょっとおかしいが、私の申上げる主意はたとい弊害の多い酒や女や待合などが交際の機関として上流の人に用いられるのでも、人間は個々別々に孤立して互の融和同情を眼中に置かず、ただ自家専門の職業にのみ腐心・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・たといこの矛盾を融和する事が不可能にしても、それを説明する事はできるはずだ。そうして単にその説明だけでも日本の文壇には一道の光明を投げ与える事ができる。――こう私はその時始めて悟ったのでした。はなはだ遅まきの話で慚愧の至でありますけれども、・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・時には、うんざりさせてしまうような調子の高い陽気さも彼女の裡にはしっくりと融和されて、女性の強靭な弾力を輝やかせる一色彩となりますでしょう。 彼女こそは愛すべき永遠の女性として、地上の歓びを生むべきなのでございます。 けれども、C先・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・さびれた、融和しない教区中に友人もなく、家族に満足も見出せない孤独な彼は疑もなく一種の悲劇的人物です。 けれども、見方によっては、ロザリーの母親の生活の方が、遙に憐れな、自覚されない点で一層悲劇的なものと云えました。彼女は、娘の時は父の・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ まず私は、人間の心のあらゆる領域、すなわち科学、芸術、宗教、道徳その他医療や生活方法の便宜などへの関心等によって代表せられる人間の生のあらゆる活動が、なお明らかな分化を経験せずして緊密に結合融和せる一つの文化を思い浮かべる。そこで・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫