・・・ 昼間、子供達が板を尻に当てて棒で揖をとりながら、行列して滑る有様を信子が話していたが、その切り通し坂はその傾斜の地続きになっていた。そこは滑石を塗ったように気味悪く光っていた。 バサバサと凍った雪を踏んで、月光のなかを、彼は美しい・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・そうして、労働者農民の群れは、鉄砲をかついで変装行列のような行列をやりだす。――これは、帝国主義ブルジョアジーが××によって、プロレタリアートを搾取する、その準備にやる行為の一ツである。そのほか、学校も、青年訓練所も、在郷軍人会も、彼等の×・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・それに私も加わり、暫く、黙って酒を飲んで居ると、表はぞろぞろ人の行列の足音、花火が上り、物売りの声、たまりかねたか江島さんは立ち上り、行こう、狩野川へ行こうよ、と言い出し、私達の返事も待たずに店から出てしまいました。三人が、町の裏通りばかり・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・私は、敢然と顔を挙げ、「提燈行列です。」と兄に報告した。 兄は一瞬、へんな顔をした。とたんに、群集のバンザイが、部屋の障子が破れるばかりに強く響いた。 皇太子殿下、昭和八年十二月二十三日御誕生。その、国を挙げてのよろこびの日に、・・・ 太宰治 「一燈」
・・・とても、まともには見られない生活が行列をなし、群落をなして存在している。貴兄のお兄上は、県会の花。昨今ますます青森県の重要人物らしい貫禄を具えて来ました。なかなか立派です。人の応待など出来て来ました。あのまま伸びたら、良い人物になり社会的の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・全課程を冒険者や流血者の行列にしないために発明家や発見家も入れてもらいたい。」 歴史の時間の一部を割いて、実際の国家組織に関する事項、社会学や法律なども授けてはどうかという問に対してはむしろ不賛成だと答えている。彼自身個人としては公生活・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ 池のみぎわでおたまじゃくしの行列を見る事もある。あの行列の道筋に何か方則があるだろうか、水流と何か関係があるだろうか。そんな事をだれかと議論した事があった。もちろんなんの結論も得られなかった。 冗談はさておいて、この池が、これまで・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ これらの音につれてスクリーンに現われる映像は、ただの殺風景な兵隊の行列である。これがその場面場面でいろいろの違ったパースペクチヴで銀幕上に映出され進行する。始めにヒロインとその保護者がこの行列を見送る場面ではヒロインと観客は静止してい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・大弓を提げた偉大の父を真先に、田崎と喜助が二人して、倒に獲物を吊した天秤棒をかつぎ、其の後に清五郎と安が引続き、積った雪を踏みしだき、隊伍正しく崖の上に立現われた時には、私はふいと、絵本で見る忠臣蔵の行列を思出し、ああ勇しいと感じた。然し真・・・ 永井荷風 「狐」
・・・ 或日わたくしは、銅羅を鳴しながら街上を練り行く道台の行列に出遇った。また或日の夕方には、大声に泣きながら歩く女の列を先駆にした葬式の行列に出遇って、その奇異なる風俗に眼を見張った。張園の木の間に桂花を簪にした支那美人が幾輛となく馬車を・・・ 永井荷風 「十九の秋」
出典:青空文庫