・・・ 私共が言葉で自分達の考えを表す時、仲だちとなるものは容易に見つかりません。大抵の場合不確な考えの翻訳と云う順序を踏まなければならず、為に、私共は、よく間違って仕舞います。 けれども、スバーの黒い眼には、何の翻訳もいりませんでした。・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
東京美術学校文学会の開会式に一場の講演を依頼された余は、朝日新聞社員として、同紙に自説を発表すべしと云う条件で引き受けた上、面倒ながらその速記を会長に依頼した。会長は快よく承諾されて、四五日の後丁寧なる口上を添えて、速・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ただ上人が在世の時自ら愚禿と称しこの二字に重きを置かれたという話から、余の知る所を以て推すと、愚禿の二字は能く上人の為人を表すと共に、真宗の教義を標榜し、兼て宗教その者の本質を示すものではなかろうか。人間には智者もあり、愚者もあり、徳者もあ・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・されば位階勲章は、官吏が政府の職を勤むるの労に酬いるに非ずして、ただ普通なる日本人の資格をもって、政府の官職をも勤むるほどの才徳を備え、日本国人の中にて抜群の人物なりとて、その人物を表するの意ならん。官吏の内にても、一等官の如きはもっとも易・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 杉浦啓一が、革命の完成の日を見ないで敵の手に倒れた二十七名の同志に、謹で敬意を表すと云ったとき、私は何だか体が寒いようになりました。 次に、又宮城裁判長が眠たげな声で何かいうと、今度は絣の着物を着た若い男の人が小さい机を前にして立・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・の作者らしく、ジイドは、ゴーリキイやダビや、オストロフスキー、その他新社会の建設の中に生命を捧げた人々への無限の愛を表すために、自身のソヴェト旅行記をますます「いつもよしとして称讚したいものにたいして、最も厳格である」という自分の精神に従っ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・が、自分の生涯にかかわる愛さえ正当には守れなかった瞬間に対して、女として心から表すべき遺憾の感情を喪っている。自分の主観のなかで甘えると、知性は忽ち痲痺してしまうところを見れば、知性というものの本質は健啖であって、ひろいつよい合理的な客観力・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・林が長い獄中生活の後、直ちに野心的な大作に着手した意気に対して敬意を表すと同時に「青年」が一九三二年の封建的軍事的絶対主義日本における階級闘争が帝国主義戦争によって一層切迫した現段階において、特に近づきつつある人民革命の歴史的意義を規定する・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・与えられる親切に対して感謝を表すだけが許されるのだ。「有難う! もし私の仕事が貴君の一ペンスに価するならば!」 洗いざらしでも子供に着せる日曜着がある者がヴィクトリア公園に出て来て遊んでいた。入ったばかりの樹の下に路傍演説者が何人も札を・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫