・・・そのほんとうの原因的機巧はまだよくわからないが、要するに物理的には全くただ小規模の地震であって、それが小局部にかつ多くは地殻表層に近く起こるというに過ぎないであろうと判断される。 もし「孕のジャン」として知られた記録どおりの現象が、実際・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ある瞬間までに読んで来たものの積分的効果が読者の頭に作用して、その結果として読者の意識の底におぼろげに動きはじめたある物を、次に来る言葉の力で意識の表層に引き上げ、そうして強い閃光でそれを照らし出すというのでなかったら、その作品は、ともかく・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・このままの形で降ったものか、それとも大きな岩塊の表層が剥脱したものか、どうか、これだけでは判断しにくいが、おそらく後者であろう。こんな薄っぺらなものが噴出されたとしても、空中で衝突し合って砕けやすいであろうし、また落下の衝動でも割れないわけ・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・その時自分の意識の底層に郷里の高知の町の影像が動きかけたが、それっきりで表層までは現われないで消えていた。それが夢の中で高知の播磨屋橋を呼び出し、また飛行機の構造か何かが二重層の文化街を暗示したのではないかと思われる。後の場面に現われた土佐・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・この事実から考えると最初に出るあの多量の水蒸気は主として火口の表層に含まれていた水から生じたもので、爆発の原動力をなしたと思われる深層からのガスは案外水分の少ないものではないかという疑いが起こった。しかしこれはもっとよく研究してみなければほ・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・それをわれわれの意識の表層だけに組み立てた浅はかな理論や、人からの入れ知恵にこだわって無理に押えつけねじ向ける必要はないように思われる。人々の頭脳の現在はその人々の過去の履歴の函数である。それである人がある時にAという本に興味を感じて次にB・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ さび、しおり、おもかげ、余情等種々な符号で現わされたものはすべて対象の表層における識閾よりも以下に潜在する真実の相貌であって、しかも、それは散文的な言葉では言い現わすことができなくてほんとうの純粋の意味での詩によってのみ現わされうるも・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・それはちょうど人生の表層に浮き上がった現象をそのままに遠くからながめて甘く美しいロマンスに酔おうとするようなものである。 これから先の多くの人間がそれに満足ができるものであろうか。 私は生命の物質的説明という事からほんとうの宗教もほ・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・また昔レーリー卿が紅茶茶わんをガラス板の上ですべらせてみて、ガラスのよごれ方でひどく摩擦のちがうことを見て考え込んでいたことがあるが、これは近年になって固体や液体の表層に吸着した単分子層の研究の先駆をなしたものであった。これと似寄ったことで・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
出典:青空文庫