・・・櫛田さんが娘さんをそのような若妻としての位置において眺めて、衷心からともによろこび、安心することができたのは、母としての櫛田さんが何時の間にか広い社会的な活動の中に自分をおくようになっていたからではなかっただろうか。 父親に早く別れた男・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・ 子の為に生活するのでもなければ、親の為に生活するのでもなく、諸共に人として正しく幸福に生活して行き度いと云うのが彼等の衷心の希いである様に思われるのです。 勿論、これ等のことには、皆他の一面、他の消極があります。或る人は、それ程、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ みずから山河巨大な中国に生れ合わした人民の一人として、中国の民衆生活を衷心から愛し、おかれている苦渋の生活を哀惜し、その未来の運命の発展に対して限りない関心をもっている。そのこころが溢れている。ロシア文学史の十八世紀末から十九世紀の間・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・そのために彼はその洞察の強烈さにかかわらず、いつもリアクショナルな立場にいることになっている。衷心の希望は人間的であるのにかかわらず。 「現代史の裏面」 ベルナール氏、ヴァンダ、オーギュスト。バルザックはここで・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・ 私は、彼女の衷心の希望の対立を認めない訳には行きませんでした。真に良人を愛した者が、次の結婚を無感覚に事務的に取扱えないのは、本当の心持でしょう。それと共に、彼女が、出来る丈、人並より僅少に思われる幸福の割前を逃すまいとするのも、嘲笑・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・作者は、この主人公を衷心から支持し、登場人物の一人である医者の口をかりて、はっきりと次のように云わせている。「悪い結果が来るから悪いことをしないのではない。結果の如何にかかわらず、人はしなくてはならない事を、しなければいけないということ・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・物狂の女主人公達は、総て何かの意味で挫折した愛情の故に狂う哀れな女人であるし、幽霊となって現われる女達は、みんなこの世では果されなかった衷心の希望に惹かれて、再びこの世にそれを訴えようとして現われた人達である。 面白いのは、この時代の貴・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫