・・・男女同様婬乱なれば離縁せらるゝとあれば、男子として離縁の宣告を被る者は女子に比較して大多数なる可し。然るに本書には特に女子の婬乱を以て離縁の理由とす。亦是れ方角違いの沙汰と言う可きのみ。第四悋気深ければ去ると言う。是れ亦解す可らず。夫婦家を・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・あるも、ただ一国内に止まり、天に対し同国人に対しての罪なりしもの、今日にありては、天に対し同国人に対し、かねてまた外国人に対して体面を失し、その結局は我が本国の品価を低くして、全国の兄弟ともにその禍を蒙るのみならず、二千余年の独立を保ちし先・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・風致もなく快楽もなきのみならず、あるいは行過ぎ、あるいは回り道して、事実に大なる損亡を蒙る者なきに非ず。一身一家の不始末はしばらくさしおき、これを公に論じても、税の収納、取引についての公事訴訟、物産の取調べ、商売工業の盛衰等を検査して、その・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 公的な、人民的社会的なものを、偽りなく公的な本質におくこと、そして、私的なものは、その社会福祉の真に公的なもののために必要な抑制を蒙ること。この自明の道理こそ、民主の基本であると思う。わたしたちは、社会の公器が公器であることを欲する。・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・この著者が、そのようにして批評家として自分の書くものから蒙る「逆作用」のなかに生きつつ、他の多くの例に見るように、それへの内面的抵抗を、歪んでも自分で歪みの見えない主観のなかに立てこもることで、即ち評論から随想へ転落する方便に求めていず、刻・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・美術学校に公開の美術図書館があり、帝大に医学、文学等の公開図書館があるという工合でも、一般の蒙る便宜は随分多いだろうと思う。旧大名の華族たちが、只虫干をするだけで蔵にしまっている古文書類ももっと天下に役立てられなければならないし、特殊な生産・・・ 宮本百合子 「実際に役立つ国民の書棚として図書館の改良」
・・・御免を蒙る。」綾小路の顔からは微笑の影がいつか消えて、平気な、殆ど不愛想な表情になっている。 秀麿は気抜けがしたように、両手を力なく垂れて、こん度は自分が寂しく微笑んだ。「そうだね。てんでに自分の職業を遣って、そんな問題はそっとして置く・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・この辺は凶年の影響を蒙ることが甚しくて、一行は麦に芋大根を切り交ぜた飯を食って、農家の土間に筵を敷いて寝た。飛騨国では高山に二日、美濃国では金山に一日いて、木曽路を太田に出た。尾張国では、犬山に一日、名古屋に四日いて、東海道を宮に出て、佐屋・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・たとえば人間の道理の一例として、彼は、「身持が身の程を超えれば天罰を蒙る」という命題をかかげる。これはギリシア人などが極力驕慢を警戒したのと同じ考えで、ギリシアにおいても神々の罰が覿面に下ったのである。しかし彼はそのあとへ、「位よりも卑下す・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・と叫ぶものは過激だとお叱りを蒙る。「不徳の人間を社会より放逐せよ」と言うと僭越だとてお目玉を頂戴する。「すべての不正を打破して社会を原始の純粋に返せ」と叫ぶ者は狂人をもって目せらる。姑息なる思想! 安逸に耽る教育者! 見よ汝が造れる人の世は・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫