・・・そうしてこの問題の裏面には選択と云う事が含まれております。ある程度の自由がない以上は、また幾分か選択の余裕がないならばこの問題の出ようはずがない。この問題が出るのはこの問題が一通り以上に解決され得るからである。この解決の標準を理想というので・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・けれどもその反撥の裏面には同化の芽を含んでいる。反撥すると云う事がすでに対者を知らねばできない事になる。対者を知るためには一種の研究をしなければならない。その研究をして反撥し合っているうちに対者の立場やら長所やらを自然と認めなければならない・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・この国の文学美術がいかに盛大で、その盛大な文学美術がいかに国民の品性に感化を及ぼしつつあるか、この国の物質的開化がどのくらい進歩してその進歩の裏面にはいかなる潮流が横わりつつあるか、英国には武士という語はないが紳士と〔いう〕言があって、その・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・沙翁はクラレンス公爵の塔中で殺さるる場を写すには正筆を用い、王子を絞殺する模様をあらわすには仄筆を使って、刺客の語を藉り裏面からその様子を描出している。かつてこの劇を読んだとき、そこを大に面白く感じた事があるから、今その趣向をそのまま用いて・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・抽象的な連盟主義は、その裏面に帝国主義に却って結合して居るのである。 歴史的世界形成には、何処までも民族と云うものが中心とならなければならない。それは世界形成の原動力である。共栄圏と云うものであっても、その中心となる民族が、国際連盟・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ニイチェの驚異は、一つの思想が幾つも幾つもの裏面をもち、幾度それを逆説的に裏返しても、容易に表面の絵札が現れて来ないことである。我々はニイチェを読み、考へ、漸く今、その正しい理解の底に達し得たと安心する。だがその時、もはやニイチェはそれを切・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・の采配、又売物の掛直同様にして、斯くまでに厳しく警めたらば少しは注意する者もあらんなど、浅墓なる教訓なれば夫れまでのことなれども、真実真面目に古礼を守らしめんとするに於ては、唯表向の儀式のみに止まりて裏面に却て大なる不都合を生ずることある可・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ またあるいは説を作り、西洋文明の人と称する者にても、その男女の内行決して潔清なるにあらず、表面はともかくも、裏面に廻りて内部を視察すれば、醜に堪えざるもの多し、何ぞ必ずしも独り日本人を咎むるに足らんなどいう者なきにあらず。これは我が国・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・用いてその剛軟を論じながら、その水は何物の集まりて形をなしたるものか、その水中に何物を混じ何物を除けば剛水となり、また軟水となるかの証拠を求めず、重炭酸加爾幾は水に混合してその性を剛ならしめ、鉄瓶等の裏面に附着する水垢と称するものは、たいて・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・べーリンスキーの批評文なども愛読していた時代だから、日本文明の裏面を描き出してやろうと云うような意気込みもあったので、あの作が、議論が土台になってるのも、つまりそんな訳からである。文章は、上巻の方は、三馬、風来、全交、饗庭さんなぞがごちゃ混・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫